1970年代後半になると家庭向けマイコン(パソコン)が商品化され次々と市場投入されていきます。
国内では1976年に「TK-80」を代表とするワンボードマイコンが市販化され、開発側の意図とは裏腹にエンジニアのみならず一般大衆にも受けます。
「TK-80」はマイコンのトレーニングキットという位置付けだったにも関わらず、ピーク月2000台、トータルで17000台も売れたヒット商品となった。
この頃、海外ではAppleⅡやTRS-80などの本格的なパソコンが登場しはじめる。
一般家庭向けに価格を安く抑えたパソコン。キーボード・モニター・記憶装置などをパッケージ化したオールインワンのパソコン。マイコンからはじまったコンピュータブームがパソコンへと変わり始めます。
そんな流れを受けて、日本では、日立、シャープ、日本電気などを筆頭に次々と一般家庭向けパソコンが商品化されていくことになりました。
1978年
1978年になると、ついに個人でもホビー用途で買えそうな価格帯のパソコンが登場。
日立からは「ベーシックマスター」が168,000円。
その後、シャープから「MZ-80K」が198,000円で発売されます。
ベーシックマスター
機種名:ベーシックマスター
メーカー:日立製作所
発売日:1978年9月
価格:168,000円
CPU:HD46800(6800互換、動作周波数:750kHz)
※ベーシックマスターカタログより
日本で初めて「パーソナルコンピュータ」として発売された日立の家庭向け8ビットパソコン。
家庭にあるテレビをモニターとして利用できるようにしたことで専用モニターを必要とせず、個人でも購入できる低価格なパソコンとした。
モトローラ社の8ビットCPU「6800」と互換性のある「HD46800」をCPUに採用し、それを動作周波数750kHzで駆動。(今では考えられないほど低速で動くCPUである)
主な外部記憶はカセットテープレコーダーで市販のカセットテープにプログラムの保存ができた。
専用のRGBディスプレイやカセットレコーダーはオプションだった。(カセットレコーダーは148,000円もして安易に購入できる値段ではなかった)
この「ベーシックマスター」を開発するにあたり、日立社内ではどのような意向があったのか、当時の「日立評論」を見るとそのあたりが見えてくる。
従来は専門家しか取り扱えなかったマイクロコンピュータが、最近は広範囲な普及に伴い、様々な企業や学校の教育に採り入れられようとしている。
そこで日立製作所では、初心者向けコンピュータ高級言語”BASIC”の翻訳プログラムを開発するとともに、安価な入出力装置の使用を前提とした回路の合理化と拡張性を図るシステム設計を行った。
その結果、初心者でも手軽にプログラム技術を習得でき、更に実用にも供せる完成品形低価格マイクロコンピュータを製品化した。
※日立評論1979年4月号より
それまで一部のマニアやエンジニアのものだった「マイコン」を、初心者でも取り扱えるよう再設計。
そして、インタープリタ言語「BASIC」により簡単にプログラミングもできるようにして、低価格なパソコンを家電のように広範囲に普及させたい。
という意図が日立の社内にはあったようです。
確かに、それまでのマイコンは、機械語(マシン語)と呼ばれるCPU毎に違う専用言語が一般的で、とても初心者が気軽に踏み込めるような環境ではなかった。
機械語を使うにはニーモニックを覚える必要があり、ニーモニックでコーディングしてアセンブラに渡す必要があった。
ニームニックには変数などという親切な概念はなく、自分でアドレスを作り、そこにデータを出し入れするなど、到底一般人に理解できるものではなかった。
アセンブラもエラーを細かくチェックしてくれるような親切なものではなく、間違ったコードを記述すると簡単に暴走した。
中にはニーモニックをハンドアセンブルをして16進数で入力するようなマイコンもあった。(というか殆どそんなレベルだった)
しかし、この高級言語「BASIC」の登場により、一気にパソコンと人間との距離が縮まることになる。
「BASIC」はインタープリタ型の言語でもあるためプログラムをコンパイルする必要もなく、書いて走らせエラーを修正し、といったプロセスで簡単にデバッグもできた。
ベーシックマスターでは、この「ベーシック」を機種名に採用して親近感を持たせてパソコンの普及に成功したともいえます。
また、プログラムの保存・読み出しに、当時一般家庭に広く普及していたカセットテープレコーダーを利用できるようにしたことでさらに購入のハードルを下げている。
日立のベーシックマスターは、国内初の一般家庭向けパーソナルコンピュータとして、見事に歴史にその名を残した名機なのである。
MZ-80K
機種名:MZ-80K
メーカー:シャープ
発売日:1978年12月
価格:198,000円
CPU:Z80(動作周波数:2MHz)
※MZ-80Kカタログより
日立のベーシックマスターに次いで家庭用パソコンを登場させたのが、早くからマイコン事業を手掛けていたシャープ。
シャープ初の家庭用パーソナルコンピュータはCPUに8ビットのZ80を採用したその名も「MZ-80K」。
パーソナルコンピュータといいながら、カタログにはしっかりと「本格派のためのマイコン」と記述があるあたり、まだパソコンよりもマイコンの方がなじみのある言葉だったんでしょう。
シャープ初のパソコンは今では考えられないかもしれないがなんと半完成の組み立てキットだった。
※MZ-80Kカタログより
しかも単に組み立てするだけでなくはんだ付けまでする必要があるマニアックな電子工作キットといってもおかしくないような商品だった。
家庭向けの普及機としての狙いはあるが技術者用のトレーニングキットといった位置付けだったようだ。
ベーシックマスターは本体のみで周辺機器のモニターやデータレコーダーはオプションだったのに対し。
「MZ-80K」はモノクロディスプレイやデータレコーダーもセットされたオールインワン。
組み立てのハードルはあるものの購入すれば周辺機器を揃えなくてもすぐに使えるのも魅力的だった。
※MZ-80Kカタログより
基本プログラムはカセットテープから読み込んで起動するシャープ伝統の「クリーンコンピュータ」設計。
これは後に登場するX1シリーズにも受け継がれていく。
MZシリーズの元祖「MZ-80K」は、キーボードのハンダ付け作業を必要とするセミキットとしての登場だった。
このMZ-80Kのカタログを見て「プログラマー」という職業に憧れた少年たちも多かったのではないだろうか。
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