1970年代後半に日本市場に登場しはじめた一般家庭向けのパーソナルコンピュータ。
日立「ベーシックマスター」を皮切りに、シャープ「M-80K」、NEC「PC-8001」などのマイコンから派生した機種が次々と登場します。
1980年代になるとメーカーの勢力図も少しずつ変化し始め、当初御三家として先頭を切っていた日立が勢いを失い、NEC、シャープ、富士通の三社がシェアを伸ばし始める。
1982年には各社の人気機種「PC-8801」「X1」「FM-7」が揃い、新たな御三家としてシェアを固めていきます。
それでもメーカー各社の新商品開発意欲は衰えず1983年になっても次々と新商品が市場投入されていくのでした。
1983年
1983年はコンシューマゲーム機市場に任天堂の「ファミコン」が登場した年。
この「ファミコン」は家庭用ゲーム機の絶対王者としてこのあとしばらく君臨し続けることになります。
ファミコンの登場は家庭用パーソナルコンピュータにも少なからず影響を及ぼしました。
両者の違いはグラフィック表示機能とコントローラの機能。
アクションゲームではやはり専用コントローラでプレイするゲーム機には敵わない。
パソコンはより美麗で高精細なグラフィックや迫力のあるサウンドを追求し、アドベンチャーやシミュレーションゲーム、ロールプレイングゲームなどのジャンルが人気になります。
ベーシックマスターレベル3 Mark5
機種名:ベーシックマスターレベル3 Mark5
メーカー:日立製作所
発売日:1983年5月
価格:118,000円
CPU:HD6809(6809互換、動作周波数:1MHz)
※日立「ベーシックマスターレベル3 Mark5」カタログより
ベーシックマスターレベル3は初代から、MarkⅡ、Mark5の3機種が市場投入された。
Mark5は最も低価格な最終版で定価が118,000円まで下げられた。
定価は下げたがイメージジェネレータを標準で装備してよりグラフィカルな表現が可能になった。
Mark5の型番は「MB-6892」、実は翌年の1984年に「MB-6892A」として価格据え置きのマイナーチェンジが行われている。
PC-6001mkⅡ
機種名:PC-6001mkⅡ
メーカー:NEC
発売日:1983年7月1日
価格:84,800円
CPU:μPD780C-1(Z80互換、動作周波数:4MHz)
※NEC「PC-6001mkⅡ」カタログより
1981年に発売された「PC-6001」の上位互換後継機。
パピコンと呼ばれ、角が丸くかわいらしかった「PC-6001」のデザインから、本格派パソコンらしい角ばった外観に変更された
グラフィック機能が強化され、8色表示がスタンダードだったこの時代に、専用ディスプレイを使えば16色表示が可能になった。
兄貴分の「PC-8001」や「PC-8801」シリーズは8色表示だったので表示色ではこれを上回った。
また、BASICからTALKコマンドを使うと、日本語をしゃべらせるという他機種にない機能も追加。
NECの家庭用8ビットパソコンには、マイクロコンピュータ事業部が開発を担当した「PC-8001」シリーズの系統、テレビ事業部が開発した「PC-6001」シリーズが存在した。
両シリーズに互換性は無く、型番は似ているが設計思想は共通性がなく全くの別物だったという。
テレビ事業部の開発した「PC-6001」シリーズは、低価格で実務よりもホビー用途向けの商品。
「PC-6001」シリーズはゲーム向け機種としてヒットした。
PC-6601
機種名:PC-6601
メーカー:NEC
発売日:1983年11月21日
価格:143,000円
CPU:μPD780C-1(Z80互換、動作周波数:4MHz)
※NEC「PC-6601」カタログより
「PC-6001mkⅡ」の後に発売された同シリーズの上位機種「PC-6601」。
「PC-6001」シリーズと「PC-6601」シリーズに機能面で大きな違いはない。
「PC-6601」では3.5インチFDDを1基標準搭載しており、オプションでもう1基追加搭載することができた。
「PC-6601」は、ハードウェアスペックでは「PC-6001mkⅡ」にFDD1基を標準搭載し、いくつかの機能を追加したモデル。
同梱のゲームソフト「コロニーオデッセイ(冒険編)」では、音声合成を利用して相棒のロボットがしゃべった。
PC-8001mkⅡ
機種名:PC-8001mkⅡ
メーカー:NEC
発売日:1983年1月
価格:123,000円
CPU:μPD780C-1(Z80互換、動作周波数:4MHz)
※NEC「PC-8001mkⅡ」カタログより
NECマイクロコンピュータ事業部が開発を担当する「PC-8001」の後継機「PC-8001mkⅡ」。
NEC初の家庭向けパーソナルコンピュータとして、1979年に登場した「PC-8001」。
登場から4年が経過して機能的には他の機種に大きく劣っていた。
そこで後継機として登場したのが「PC-8001mkⅡ」。
NECのパソコンはmkⅡ、mkⅡSRと進化するのが定番となっていた。
最大160×100ドット8色という、見劣りがするようになっていたグラフィック機能。
解像度640×200ドット2色と320×200ドット4色のモードが追加され、表現力が格段に向上。
しかしながら、さびしかった効果音は相変わらずビープ音のままだった。
「PC-8801」シリーズの登場により「PC-8001」シリーズは徐々に存在感を失っていく。
PC-8201
機種名:PC-8201
メーカー:NEC
発売日:1983年3月
価格:138,000円
CPU:80C85(8085のCMOS版、動作周波数:2.4MHz)
※NEC「PC-8201」カタログより
PC-8801シリーズのNECから発売されたA4サイズのハンドヘルドコンピュータ「PC-8201」。
型番に8000がついていることからもわかるように、PC-8001シリーズとのBASICでの互換性がある。
搭載されている「N82-BASIC」は「N-BASIC」との互換性が考慮された言語になっていた。
液晶ディスプレイとキーボードが一体型になっており、乾電池でも稼働することができる。
対応電池は単3型乾電池4本、アルカリ電池なら約18時間使用可能だった。
液晶ディスプレイは240×64ドットのグラフィック表示と、40桁×8行のテキスト表示ができた。
日本市場でのハンドヘルドコンピュータは前年の1982年にエプソンが日本初となる商品「HC-20」を発売していた。
「PC-8201」はデザイン的にも優れており、カラーもアイボリーホワイトとメタリック、それとワインレッドも用意されていた。
PC-8801mkⅡ
機種名:PC-8801mkⅡ
メーカー:NEC
発売日:1983年11月
価格:PC-8801mkⅡmodel10:168,000円
PC-8801mkⅡmodel20:225,000円(FDD1基内蔵)
PC-8801mkⅡmodel30:275,000円(FDD2基内蔵)
CPU:μPD780C-1(Z80A互換、動作周波数:4MHz)
※NEC「PC-8801mkⅡ」カタログより
NEC「PC-8801」の上位互換機。
カタログからもわかるように、業務用としてもホビー用としてもこれ1台で何でもできる欲張りな高性能パーソナルコンピュータ。
「PC-8801」シリーズの快進撃はこの後に登場する「PC-8801markⅡSR」からなのでシリーズとしては目立たない存在。
本体デザインはコンパクトになりFDDを本体に最大で2基まで内蔵可能に、また、縦置きにもできる。
オプションだった漢字ROMは標準で搭載された。
ただし、サウンド機能は相変わらずで、ライバルのX1やFM-7と比べて貧弱だった。
PC-9801E/F
機種名:PC-9801E/F
メーカー:NEC
発売日:PC-9801F:1983年10月、PC-9801E:1983年11月
価格:PC-9801F1:328,000円(FDD1基内蔵)
PC-9801F2:398,000円(FDD2基内蔵)
PC-9801F3:758,000円(FDD1基、HDD10MB内蔵)
PC-9801E:215,000円
CPU:μPD8086-2(Intel8086互換、動作周波数:8MHz)
※NEC「PC-9801E」カタログより
NECのビジネス向け16ビットパーソナルコンピュータ「PC-9801」シリーズの後継機。
「PC-9801E」は低価格普及機で価格が215,000円に抑えられた。
キャッチコピーは「その経済感覚がE」。
正面にあるスイッチでCPUクロックを初代と同じ5MHz、または新たな8MHzに切り替えができるようになった。
その他スペックは初代から変更がなく、大きな目的はコストダウン。
このコストダウンにより、市場ニーズを掴んで「PC-9801」シリーズは日本のビジネスシーンに浸透していく。
そしてビジネスユースに必須な漢字ROMとFDDを搭載して同時期に登場した「PC-9801F」。
5インチFDDを1基内蔵したF1、FDDを2基内蔵したF2がラインナップ。
「PC-9801F」の最上位機種は1基のFDDと1基のHDDをそれぞれ内蔵して価格なんと758,000円。
内蔵されたSASIのHDDは容量が10MB(メガバイト)だった。
※メガバイト(MB)はギガバイト(GB)の1/1000の容量です。
MZ-2200
機種名:MZ-2200
メーカー:シャープ
発売日:1983年7月17日
価格:128,000円
CPU:LH0080A(Z80Aのセカンドソース、動作周波数:4MHz)
※シャープ「MZ-2200」カタログより
1982年に発売された「MZ-2000」の完全互換機「MZ-2200」。
オールインワンを捨て、「MZ-700」のようなキーボード一体型の本体となる。
前身の「MZ-2000」では拡張機能となっていたGRAMを標準装備し、640×200ドットカラー出力が可能になった。
ディスプレイとデータレコーダは別体となり、キャッチコピーは「いま発展的コンポ思想を、MZに」。
X1C
機種名:X1C(型名:CZ-801C)
メーカー:シャープ
発売日:1983年10月
価格:119,800円
CPU:Z80A(動作周波数:4MHz)
※シャープ「X1C」カタログより
シャープX1シリーズ2代目となる1983年10月発売の「X1C」。
このとき同時に3インチFDD1基を搭載した「X1D」も発売された。
初代機との違いは本体がキーボード一体型となりオプションだったグラフィックRAMが標準搭載された。
これにより、標準でX1シリーズの豊富なゲームタイトルを遊ぶことができた。
本体カラーは初代にあったスノーホワイトがなくなり、ローズレッドとメタリックシルバー。
初代X1は「マニアタイプ」、X1Cは「アクティブタイプ」と呼ばれた。
X1D
機種名:X1D(型名:CZ-802C)
メーカー:シャープ
発売日:1983年10月
価格:198,000円
CPU:Z80A(動作周波数:4MHz)
※シャープ「X1D」カタログより
シャープX1シリーズ3代目となる1983年10月発売の「X1D」。
3インチのFDDを1基標準で内蔵している。
データレコーダの制御に他機種と違うところがあり、テープ版のソフトをX1Dで遊ぶと不具合が生じることがあった。
愛称は「プロフェッショナルタイプ」。
SMC-777
機種名:SMC-777
メーカー:ソニー
発売日:1983年11月
価格:148,000円
CPU:Z80A(動作周波数:4.028MHz)
※ソニー「SMC-777」カタログより
1982年に発売されたソニー初の家庭用パーソナルコンピュータ「SMC-70」。
家庭向けパソコンとしては高性能だったが価格も高額になり、売れ行きは今ひとつだった。
その翌年、1983年に発売されたのがこの「SMC-777」。
ホビーパソコンらしいキーボード一体型の本体に3.5インチFDDを1基内蔵。
テンキーはなく、方向キーが大きなひとつのパッドになっておりゲームの操作性を考えて工夫されている。
ライバル他社のパソコンに比べて勝っていた機能がグラフィック。
8色表示に中間色加えて標準で全16色表示が可能。
さらに、オプションのカラーパレットボードを装着すれば4096色から16色を選んでグラフィック表示すること可能になる。
翌年1984年には、このカラーパレットボードを標準装備した「SMC-777C」が168,000円で発売されています。
時代の先を行く高性能マシンでしたが、結局ソニーは、NEC・シャープ・富士通の御三家に食い込むことはできなかった。
MULTI8
機種名:MULTI8
メーカー:三菱電機
発売日:1983年9月
価格:123,000円
CPU:Z80A(動作周波数:4MHz)
※三菱電機「MULTI8」カタログより
大手家電メーカー各社が続々と家庭向けパーソナルコンピュータを発売する中、1983年になりようやく三菱電機からもパソコンが登場します。
当時家庭向け8ビット機は、ザイログ社のZ80系CPU、モトローラ社のMC6809系CPUが殆どのマシンで採用されていた。
Z80系はシャープ、NEC、ソニー、カシオ、ソード、東芝などが採用、MC6809系は富士通や日立が採用していました。
三菱の「MULTI8」はNECの「PC-8801」とほぼ同じハードウェアスペックでZ80A互換CPUを採用。
ソフトウェアも100%の互換性はないがNECの「N-BASIC」を読み込むこともできたという。
PASOPIA7
機種名:PASOPIA7
メーカー:東芝
発売日:1983年7月
価格:118,000円
CPU:Z80A(動作周波数:3.99MHz)
※東芝「PASOPIA7」カタログより
1981年に東芝が発売した8ビットパーソナルコンピュータ「PASOPIA」の後継機となる「PASOPIA7」。
家庭用パソコンに求められる、ホビー用途での弱点(グラフィックやサウンド機能)を補強して1983年に登場。
640×200ドット8色表示が可能、同時発色数はパレット機能により27色中の8色と表現力が豊か。
シンセサイザ用LSIを2個搭載しており、6オクターブ6重和音とサウンド機能は強力だった。
カートリッジスロットも設けられ、ROMやRAMパックを装着して機能拡張も簡単にできる。
スペック的には御三家と比較しても遜色なかったが、やはり後発マシン、ソフトウェアのハンデがありシェアを奪うことは難しかった。
RX-78
機種名:RX-78
メーカー:バンダイ
発売日:1983年7月
価格:59,800円
CPU:Z80A(動作周波数:4.1MHz)
※バンダイ「RX-78」カタログより
ホビーメーカーのバンダイから発売されたゲーム用パソコン。
当時は電波新聞社が月刊誌として発売していた「マイコンベーシックマガジン」が人気だった。
プログラミング言語「ベーシック」でゲームプログラムを作成して投稿するスタイルで個人で作成したゲーム作品を発表できたのだ。
ゲーム機を発売していたホビーメーカーもこれに目を付け、プログラミングができるゲーム機も存在した。
任天堂の「ファミコン」もファミリーベーシックがあり、先程のベーマガにもゲームの投稿があったほど。
バンダイから発売された「RX-78」はパソコンとゲーム機の中間的な存在。
中身は本格的なパソコンと同じ設計だが、ゲームがカートリッジで供給され、ゲーム機としても手軽に遊べる。
それでいてプログラミングもできてベーマガに作品の投稿もできる。
「RX-78」というネーミングも実にバンダイらしく、人気アニメ「機動戦士ガンダム」からガンダムの型番を持ってきている。
ゲームパソコンの中では少々高額な部類に入るが、発売されたソフトが比較的多く、漢字ワープロや学習用ソフトなど、実用的なソフトも発売された。
キャッチコピーは「気軽に使える、多機能パソコン」。
パソコンの売れ行きに重要だったソフトは、ゲームや教育関係、実用ツールなど多岐にわたり、全31種類以上が発売された。
SC-3000
機種名:SC-3000
メーカー:セガ
発売日:1983年7月15日
価格:29,800円
CPU:D780C-1(Z80A互換、動作周波数:3.58MHz)
※セガ「SC-3000」カタログより
こちらもホビーメーカーのセガから発売されたホビーパソコン。
ソフトはカートリッジの形式で供給され、ベーシックもカートリッジで発売された。
同社のゲームマシン「SG-1000」や「SG-1000Ⅱ」などとハード的に互換性があり、中身はキーボード付きのゲームマシンだ。
「SG-1000」は「SG-3000」から、キーボードやビデオ出力端子、拡張機能端子などを省いた廉価版という位置付けで同日発売された。
つまり順序的にはパソコン「SC-3000」が開発され、派生品としてゲーム機「SG-1000」が生まれ、そして同時発売されたというところ。
もともとはアーケードゲーム機メーカーだったセガですが、家庭向け商品の第一弾がパソコンだったことは驚きです。
MSX
機種名:MSXはパソコンの共通規格で機種名は各社で個別に決めていた
メーカー:マイクロソフトとアスキーにより提唱されたパソコンの共通規格
発売日:1983年
価格:価格も各社で個別に決めていた
CPU:Z80A相当品(動作周波数:3.579545MHz)
※日立「HB-55」カタログより
MSXはパソコンの共通規格の名称。
1983年にマイクロソフト社とアスキー社により提唱され、協賛したメーカー各社から規格に準じたハードウェアのパソコンが発売された。
MSXのハードウェアスペックそのものは決して高いものではなかったが、開発にコストがかからないため、低価格なMSXが次々と登場した。
当時の日本の家庭向けパソコン市場では熾烈なシェア争いが繰り広げられていた。
しかし、事実上、NEC、シャープ、富士通というパソコン御三家がトップシェアを争う形となり、その他のメーカーはこの3社のシェアを切り崩すことはできなかった。
パソコンにはソフトウェアが必須であり、ソフトウェアは資産となるため、後発メーカーがシェアを奪うのはとても難しかった。
そのため、8ビットパソコンのシェア争いに敗れた多くのメーカーはMSX規格に準じたパソコンの商品開発に流れていった。
1983年に登場したMSXパソコン、主なところではソニーの「HB-55」、松下電器産業の「CF-2000」、日立の「H1」など。
こうしてみるとシェア争いに敗れた大手家電メーカーが「MSX規格」に流れていったように見えます。
しかし、驚いたことに1983年にMSXマシンを発売したメーカーがもう一社。
それは「FM-7」シリーズの「FM-X」。
御三家の中で唯一MSX規格のパソコンを発売しています。
この「FM-X」、FM-7と接続することでメモリサイズを32KBに拡張できた他、6和音のサウンド機能も利用可能に。
FM-7側はMSXの機能「スプライト機能」やジョイスティックポートを使用できるようになるなどパワーアップ。
しかし、FM-7もFM-Xも高価なマシン、ゲーム機能にそこまでお金をかけたヘビーユーザーが実際いたかどうかはわからない。
コメント